中村佐知(JCFN理事、キリスト教書翻訳者、スピリチュアル・ディレクター)
イエズス会のイグナチオ・デ・ロヨラ(聖イグナチオ)が教え、実践していた祈りの方法で、「意識の究明(Daily Examen)」と呼ばれるものがあります。これは、過去24時間を振り返り、その中にあった神様の愛に満ちた御臨在(Presence)に注意を払い、御霊の動き・導きを識別できるようになるための霊的修練(エクササイズ)です。
パウロは、御霊によって歩みなさい、御霊によって導かれなさい、御霊によって生きなさい(ガラテヤ5章)と教えました。また、御霊を消してはなりません(1テサロニケ5・19)とも言っています。イエス様ご自身も、「わたしを信じる者は、聖書が言っているとおりに、その人の心の奥底から、生ける水の川が流れ出るようになる」(ヨハネ7・38)とおっしゃいました。
私たちはいつでも生ける水の川の流れの中にとどまり、御霊によって導かれつつ歩みたいと願うでしょう。しかし実際の日々の生活では、生ける水の川の流れから外れてしまい、肉の思いで生きてしまっているときもあると思います。その一方で、振り返ってみるならば、あれは御霊が助けてくださったのだ、導いてくださったのだと思えるときも多くあるでしょう。
「意識の究明」では、一日を振り返り、自分がいつ御霊によって導かれていたか、御霊とともに歩んでいたか、またいつ御霊を消して、肉の思いで歩んでいたのか、意識的に思いを巡らします。そのとき、一日の中で起こったことすべてを、緻密に思い返し、分析する必要はありません。また、いかにも重要と思われることだけに集中するのでなく、心の中に思い出されたものは、たとえ些細なことであっても流さずに心に留めます。大きなことでも小さいことでも、聖霊の導きのままに示していただくよう求めます。自分では特に重要だと思っていなかったことに、思いがけない神様の恵みが隠れていたことに気づかされるかもしれません。
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基本的には次のステップをとります。
① 神の御臨在を意識し、感謝する
何度か深呼吸をし、主の前に静まり、心を整える。今、ここにおいて、神が共にいてくださること(神の御臨在 presence)、神が私たちのそばにいたいと願っておられることを意識する。この日が、いのちが、救いが、すべて神からの贈り物(gift)であることを覚え、感謝する。
② 聖霊がこのプロセスを導いてくださるよう求める
神がご覧になっているようにその日一日を振り返ることができるように、神が私に見せたいと望んでおられることを心に思い起こさせてくださるように、恵みを乞い願う。
③ 一日を振り返り、特に自分の感情の動きに注意を払う
聖霊の導きのもとで、感謝をもって一日の出来事を振り返る。私の言葉や行動はどのようなものだったか。その背後にあった私の意図や動機、感情は何だったか。今日体験した出来事に対する私の反応、心の動き(感情)はどうだっただろうか。喜び、不安、高揚感、退屈さ、自信、苛立ち、思いやり、怒り、安心感…… また、一日の出来事の中で、そのとき神はどのようにあなたと共におられたか。神は私をどのように導かれたか? 神は私に何を語ろうとしておられたか? それに対する私の反応、応答、態度はどうだったか? 神の御臨在(または不在)は私にどのように感じられたか。私は神に向かおうとしていたか、それとも神から離れようとしていたか?
④ 感謝、告白、赦しの求め
③ で気づいた、一日の中で自分の内に働いていた罪の力や恵みの力についての応答をする。 特に重要と思われる一つのことを示していただくよう聖霊に願い、その一つに集中するといい。神のみちびき、恵みに応えることができたならば、それを感謝する。罪や過ち、また神の愛や呼びかけに応えなかったことを示されたなら、それを主の前に告白して赦しを願う。
⑤ 明日に向けて祈る
明日の自分に必要な恵みと助けを神に願い求める。
この祈り方にはいろいろなバリエーションがありますが、だいたいこんな感じです。
振り返りの期間も、一日ではなく一週間、一ヶ月間、一年間といった長い期間を概観するように振り返ることもできます。
また、一日(あるいはそれより長い期間でも)を振り返るとき、必ずしも時系列に沿って出来事を追うのでなく、今日一日の中で、最も感謝を感じたのはいつだったか、最も感謝を感じなかったのはいつだったか、最も愛に満たされていたのはいつだったか、最も愛を感じていなかったのはいつだったのか、自分が最も生き生きとしていたのはいつだったか、神のいのちから最も離れていたのはいつだったか、いつ神様や他者とつながっているように感じたか、いつ神様や他者から切り離されているように感じたか、といった問いをしてみるのもいいかと思います。
このような振り返りの祈りは、自分の生活の流れの中で働いておられる神様の動き、御声により敏感になっていくのを助けてくれます。定期的に立ち止まり、自分がどのように神とともに歩んでいたのかを振り返るのは、幸いなことではないでしょうか。この祈りは、自分を責め、打ちたたくためのものではありません。むしろ、自分の生活の中の神様の御臨在により注意を払うことで、より一層感謝できるように助けてくれるはずです。日々悔い改めの機会が与えられることも感謝です。この祈りのエクササイズが、皆さんの日々の歩みに神さまの恵みがより豊かに流れ込むための助けとなりますように!
参照:Ignatian Spirituality https://www.ignatianspirituality.com/ignatian-prayer/the-examen