中村佐知(JCFN理事、キリスト教書翻訳者、霊的同伴者)
今月は、「呼吸の祈り」と呼ばれる霊的修練をご紹介したいと思います。
呼吸の祈りとは、吸って、吐いての自分の呼吸に合わせて、心の中で短いフレーズを繰り返し祈るシンプルな祈りです。いつでもどこでも祈ることのできる、単純な、それでいて力強い祈りです。混乱しているとき、不安なとき、疲れているとき、私たちの思いのフォーカスを神様に向け直し、魂を生き返らせてくれます。また、通勤途中や家事をしながら、散歩しながらなど、いつでも祈れるので、自分は主とともに歩んでいるのだということを、1日を通して自分に思い出させることができます。パウロが「絶えず祈りなさい」と言ったとき、彼が想定していたのはこのような祈りだったのかもしれません。
呼吸の祈りは、歴史的には、紀元5~6世紀ごろまでにさかのぼると言われます。当時、エジプトの砂漠に入って隠遁生活を送っていた「砂漠の師父・師母」と呼ばれる人たちがいました。その「砂漠の師父」たちが祈っていた祈りが、その後東方教会へ伝わり、Jesus Prayerと呼ばれるようになりました。Jesus Prayerとは、「主イエスキリスト、神の御子、罪人の私を憐れんでください。(Lord Jesus Christ, Son of God, have mercy on me, a sinner」という短い祈りです。彼らはこの祈りを呼吸に合わせて1日に何十回何百回と繰り返していたそうです。
呼吸の祈りは、短い二つのフレーズの組み合わせからなります。息を吸い込みながら最初のフレーズを唱え、吐き出しながら二つめのフレーズを唱えます。実際に声に出しながらではうまくできないので、心の中で唱えます。たとえば、Jesus Prayerであれば次のようになります。 (息を吸い込みながら)主よ… (吐き出しながら)あわれんでください…
実際に祈るときには、声には出しません。 ギリシャ語で「息」を表す言葉を「プネウマ」と言うそうですが、プネウマには「霊」という意味もありす。聖霊もプネウマです。ゆっくりと呼吸(pneuma)に合わせて祈ることで、自分の内に住まわれる聖霊(Pneuma)を意識することができます。私を慰め、励まし、力を与え、教えてくださる聖霊が、私と共にいてくださることを意識します。
呼吸の祈りで実際に祈るフレーズに、決まりはありません。
エリコでの目の不自由なバルテマイとイエスとのやりとりを思い出してみましょう。バルテマイはイエスに向かって叫びました。「ダビデの子のイエスさま。私をあわれんでください」。するとイエスは彼に尋ねました。「わたしに何をしてほしいのか」。
イエスがあなたに「わたしに何をしてほしいのか」と優しく問いかけている場面を想像してみてください。あなたはイエスに何を求めますか?
「主よ、あわれんでください。」
「主よ、助けてください。」
「主よ、ともにいてください。」
また、短い御言葉を選んで、それを黙想するときの祈りとしてもいいでしょう。
たとえば、「主は私の羊飼い。」という一節に思いを巡らせながら、呼吸に合わせて祈ります。
主は… と心の中で言いながら大きく息を吸い込む。そして、
私の羊飼い… と言いながら、ゆっくりと息を吐く。
または、主の御名である「ヤーウェ」を呼吸に合わせて祈ってもいいでしょう。
「ヤー」「ウェ」「ヤー」「ウェ」 …
息を吐き出すときは、自分の中の不安や恐れや苛立ちなど、自分を神様から引き離すものを吐き出すつもりで、息を吸い込むときは、神様の愛、恵み、憐れみなど、あなたを生かしてくれる神様のいのちをたっぷり吸い込むつもりで。
ぜひ、やってみてください。